S3組織メンバーの権利と理想的態度
概要
作成, 公開.
S3組織構造の紹介では、組織がどう機能するかを解説した。
ただどのような組織であれ、明示・暗黙を問わず、守るべきルールや取るべき態度というものがある。
S3組織も同様に、各個人が意のままに行動してはいくら構造が強固だろうが上手く機能しないと考える。
このエントリでは、まずはどのようなメンバーであれば強いリーダーやカリスマ的存在の意向を制限しつつ、かつ権力の発生を抑えながら意思決定が行えるかを考察する。
続いて、それを満たすための権利・理想的態度を提示し、それぞれの意図を解説する。
S3組織構造が目指すメンバー像
S3組織構造を採用したグループでは、様々な仕組みを通じて個人への依存度が下がってゆく。
すると人気者・カリスマを供えた人・古参などの、一般的な組織では発言権が強かった個人は、従来の彼らのやり方で他者を動かすことが難しくなる。
そのため、彼らは振る舞いを変えたり、S3組織から離れたりすることで、以下を満たすメンバーが自ずと残ることになる。
- 心理的安全性・自他境界を重視する
- 他人に多くを期待しない
- 内的動機で活動する
このように組織では、様々な組織的制限を持ちながらも、他者ではなく自身の決断で行動できるようになるため、心理的に安全な活動となることが予想される。
S3の権利
- 公式の手続き以外の依頼や提案を引き受ける必要はない。
- 割り当てられた役割で、個人的な能力を発揮させようとしない。
- 他者の活動時間と優先順位を尊重する —— 時間外の返答や反応を期待しない。
- 他者の失敗、省略や作業などの重複を許容する。
訂正は個人的ではなく仕組みによって行われる。 - 他者の発言と行動から、悪意や意図を推察しようとしない。
- 権利を悪意で破る/破らせる人に対処するのは個人ではなく機関である。
- 組織的な歴史を記録するが、個人の物語には関与しない。
- メンバー全員が後から確認できない場所や方法で行われた約束や合意に従う必要はない。
有効な約束や合意は認証チャネルでのみ作られる。 - 活動に必要な知識は文書で記録される。
- 負担が大きすぎる時に休むこと。メンバーの休息を尊重すること。
- 有害な事案を報告する必要があるなら関係者の名前は伏せ、適切な役割保持者に尋ねられた時・その相手にのみ明かす。
S3の理想的態度
- 他者に感情的に影響を及ぼそうとしない。
自らの「時間的余裕」「能力的余裕」「動機」「役割」に基づいて行動する。 - 役割担当者の発言と行動は、個人としてではなく、機関のものとして捉える。
- あらかじめ決めた活動時間に活動することを心掛ける。
- やるべきかやらないべきかで迷った時は、小さな、やり直しの利く行動を選ぶ。
- ユーモアには権力やプレッシャーが忍び込む。敵を作らないものを使う。
- S3の理想的態度は参考であり、強制されたり、従わないことで罰せられたりしない。
- 他者のアイデンティティとの距離感を尊重する。役と役の関わりを心掛ける。
- 個人チャネルはタスクの明確化のために用いる。
- 将来のメンバーのために書き残す。今日明確にしたことは明日の混乱を防ぐ。
- 努力より持続可能性を尊ぶ——休憩は例外ではなく貢献である。
- 懸念事項のパターンと構造に着目し、個人に着目しない。
意図の解説
上記の権利と態度は、それぞれの番号について表裏一体となっている。
- 他者のお願いは、それが役割に基づくものでない限り、従う必要はない。
- 緊急性のあることは、事前に準備していないのなら諦める
- 説得や「誰々のお願い」は外的な動機を生み、お願いされた人に得はない
大人数でやるべきことは、しかるべき場所で提案し、合意をとる必要がある。
このためS3組織は、緊急性の高いタスクを行う活動には不向きである。
役割担当者の行動の意図についての条文。
役割を濫用し始めると、- 他の役割の範囲に重複するまで活動範囲を広げる
- 自分の有能さを喧伝する為に役割を使う
- 特定の個人に有利なように活動する可能性がある。
役割の人気が偏るようであれば、タスクを分割・再編することで対処する。
時間の使い方を定めるもの。
他者の時間を尊重するあまり、自分の時間の使い方を蔑ろにする可能性があるので他者の時間の尊重を理想的態度に、自分の時間の方を権利にした。つまり質問・相談・提案は自分の活動時間に行うが、その反応は即時になされないことを期待する、という態度を奨励したい。
さらに権利1と組み合わせると、相手は反応する義務すら発生しない (ただし役割が定める場合は回答することが求められる)。あらゆる善意の活動にブレーキがかかるべきではない。
成されるべきことを複数回したり失敗したりするデメリットより、成されるべきことが一度も成されないデメリットの方が深刻である。失敗・省略・重複された側は、権利5を守ること。
冗談や皮肉まで避けなければならないのか、と思うかもしれないが、面白いことは隠れた権力である——他者を愉快にさせたり、感心させたり、更には何かを傷つけたりすることで、集団において重視されることと軽視されることとが何かを仄めかすことになるからだ。
駄洒落や自虐にはそのような効果が小さいため、制限するものではないが、自虐が知らない内に他者を刺していないかは注意したいし、他者にウケたように振る舞わせることも避けたい。
あからさまな悪意を向けられた時でさえそれに悪意を見出さないことは、実は悪意に対する最良な対応である事が多い。
どう捉えても悪意にしか捉えようがない事は、適切に報告して対処される。基本的に権利は絶対だが、意図せずに破ってしまうことは権利4で救済されるべきだ。ただ短期間に何度も「知らずに/ついつい/どうしても」破ることは一定期間発言停止などの対処が必要になる。
一方で理想的態度は「遵守すれば皆が平穏に過ごしやすくなる」から存在するものだ。
望ましい振る舞いを強制することは、却って息苦しさの元になる。S3組織構造を用いるグループは、所属意識や集団的アイデンティティを生み育てることを目標としない。
歴史に囚われ過ぎることで、過去の意思決定が現在の意思決定よりも価値があるように思われるおそれがある。
常に現在の意思決定が過去のものより重視されるべきだ。この組織に属する人は、それぞれがこの組織の外にアイデンティティを持つことを推奨する。
もし組織が自分のアイデンティティに反する意思決定を行ったとしても、そこに悪意はない可能性があり(ルール5)、そのような決定に基いた活動に参加する必要もない(ルール1)。
可能であれば、意思決定における審議のタイミングで反対意見を述べるべきだ。- DMなどの私的な連絡チャネルでも他人からの指図は受けない。
S3組織構造にとって、
- 連絡チャネルや意思決定周期、役割の交代制などは骨
- ルールや行動指針などの活動様式は肉
- 文書化は血液
である。
不十分な文書化はメンバーを不安にさせ、必要以上の文書化はメンバーを混乱させる。