自己超越主義の実践
概要
作成, 公開.
個人主義の諸問題と自己超越主義について(詳細はリンク先参照)で提案した自己超越主義について、超越価値をどのようにして見つければいいのか、どう実践すればいいのかといった日常生活の一部として活用する方法を考察する。
- 自己超越主義
- 自分よりも大切な価値を発見し、その価値のために生きる態度。
- 超越価値
- その人が選択した「自分よりも大切な価値」のこと。
エゴの分類
まずは再度、エゴがどのようにして顕在化するかを確認したい。
| 類型 | 特徴 | |
|---|---|---|
| A | 回避・逃走 | 失敗を恐れ、挑戦しない |
| B | 被害者意識・転嫁 | 周りが悪いと考える |
| C | 優越・支配 | 自分は特別であるように振る舞う |
| D | 自己破壊 | どうせ自分が悪いと考える |
| E | 依存・承認欲求 | 皆がどう思かで行動する |
ざっくりだが、おおよそこの5つでエゴのはたらきを分類できる。 簡単なエゴの傾向診断も作成しているので、参考になれば幸いである。
この類型を基に、超越価値を持つことでこれらのエゴがどう抑制されるのかを考察する。
A: 超越価値による回避・逃走するエゴの制馭
超越価値を持つと「自分が超越価値のためにできることは何か?」と自らに問うことになる。
これにより、リスクの考え方が変化する。
つまり傷つきたくない自己の防衛よりも、超越価値が実現しないことのリスクのほうが大きくなるのである。
もちろん、すぐさま自分が傷つく恐怖から開放されるわけではないが、
- 失敗しても傷つかない規模で始めてみる
- どのように失敗する可能性があるか、慎重に考察できる
……ことができるだろう。特にリスクに対して慎重であることは、超越価値が大きくなった時に効果を発揮するだろう。
例えば実態のある作品を制作することを超越価値とするなら、小さなプロトタイプを先に制作すると、失敗しても金銭的損失を抑えられる。
また失敗を想定して準備できることも強みになるはずだ。
B: 超越価値による被害者意識・転嫁するエゴの制馭
被害者意識の強い人が「自分が超越価値のためにできることは何か?」と問うとき、自分と同様に苦しむ対象のために行動する力が湧くだろう。
例えば不平等や格差の是正のために社会運動を始めるとき、この世にどのような苦しみがあるかを良く理解していることが強みになる。
つまりこれまで持っていた被害者意識から学び、自分のためではなく新たな被害者のために声を上げることができるのは、このタイプのエゴを持つ人の価値ある能力だと言える。
C: 超越価値による優越・支配するエゴの制馭
他者よりも特別な自己像を持ったり、他者を支配しようとするエゴが「自分が超越価値のためにできることは何か?」と問うと、その能力は他者を見下すものではなく、価値を実現するための道具として考えることができる。
他のエゴと同様、自分を特別視することが突然なくなるわけではない。そのため「自分が特別か否かは超越価値にとってどうでもいい」と思えるかが重要である。
またこの類型の人が「特別なのは自分ではなく、この超越価値である」と確信するとき、もはや自分の意見は二次的な要素となるため、他者のコメントを参考にすることもできるようになるはずだ。
D: 超越価値による自己破壊するエゴの制馭
自分を過度に攻撃するエゴは、自己に完璧を求める向上心の裏返しだ。
彼らが「自分が超越価値のためにできることは何か?」と問うとき、「何もしないより、少しでも役に立つ何かをしよう」と考えられるようになれば、少しずつ完璧でない自己を許せるようになるだろう。
また、持ち前の謙虚さと超越価値への貢献が認知されれば、多くの人がこの活動を好意的に捉えることは想像に難くない。
完璧主義が根強い人には、例えば簡単な作業を黙々と繰り返し積み重ねる必要があることを超越価値に掲げると良いかもしれない。
難しいことを一発で達成する必要がある種類の目標は、完璧主義的な人にとって「そもそも取り掛かれない」ことが予想されるからだ。
E: 超越価値による依存・承認欲求するエゴの制馭
依存的で周囲の意見に合わせる人が超越価値を持つことができれば、超越価値は献身的な支持者を獲得することになる。なぜなら、そもそも他者に依存するほどに自分の意見を持たなかったのであれば、超越価値はその人がもっぱら頼る先となることが想像できるからだ。
超越価値という内的な羅針盤を持ちつつ、周りの人と協調することも忘れないことで、協力して価値を実現する資質となる。
どのような超越価値でも、それをいかに人に知ってもらい、肯定的に思ってもらえるかを他のどのタイプよりも真剣に考えることができることも強みの一つである。
他者の超越価値に賛同し、その活動に参加する形をとることが、依存的エゴにとって無理のない活動指針ではないかと推察する。
注意点: 超越価値とエゴの膠着
個人主義の諸問題と自己超越主義についてでも述べたとおり、エゴが暴走した個人主義への処方箋として自己超越主義を提案している。そのため、自己超越主義が危惧する点として「エゴが超越価値と結び付く」可能性を指摘したい。エゴを抑えるための思想がエゴと結び付いては本末顛倒だからだ。
以下にエゴの類型に対する、エゴをより拡大させてしまう可能性がある価値を表にした。
| 類型 | 避けるべき価値 | |
|---|---|---|
| A | 回避・逃走 | 極端に批判の少ないもの |
| B | 被害者意識・転嫁 | 無責任を許可するもの |
| C | 優越・支配 | 自己の特別性を強化するもの |
| D | 自己破壊 | 挑戦の機会が限られたもの |
| E | 依存・承認欲求 | カリスマ的第一人者と関係するもの |
この表はあくまで一例に過ぎないが、共通するのは「自己への批判を正当化させる機会を多く提供する価値」という点である。エゴは論理的・道徳的に安全な位置に安住するチャンスを常に窺っていると考えるべきだ。
またエゴに対する別の方策も利用することも非常に有用だと考えられる。
- 瞑想・マインドフルネス
- ジャーナリング
- 習慣的な感謝
などが有名だが、これらの習慣と自己超越主義を組み合わせることで、エゴを抑制しながら超越価値への貢献・目標への没入を促進できるだろう。
付録1: エゴの傾向判断
自分のエゴが、主にどのような戦略で自身を正当化しているのか、自分自身で客観視することは難しい。
以下の4択問題を率直に回答することで、エゴの戦略を理解する手助けになると思う。
※AI作成のものを一部修正している。
- 友人から飲み会に誘われたときの内心に一番近いのは?
a)疲れるし変なこと言って嫌われたら怖いから断ろう →A
b)昔似た場で傷ついたから、もう行きたくない →B
c)私がいた方が場が盛り上がるから行ってあげよう →C
d)みんなが楽しみにしてるみたいだから、行かないと悪いかな →E - 職場で自分の意見が否定されたとき、最も感じやすいのは?
a)また議論になるの嫌だから、次から黙っておこう →A
b)私の努力をちゃんと評価してくれない周りが悪い →B
c)あいつらの理解力が低いだけだ →C
d)みんなに嫌われたら困る →E - SNSの投稿に「いいね」があまりつかなかったとき、どう思う?
a)人に見られるの怖いから、もう投稿やめよう →A
b)フォロワーたちが冷たい、私の価値をわかってくれない →B
c)私の投稿はレベルが高いから、わかる人だけわかればいい →C
d)もっとみんなが喜ぶ内容にしないと →E - 上司にミスを注意されたとき、心の中で最初に浮かぶのは?
a)次から関わらないようにしよう、怖い →A
b)ちゃんと指導してくれなかった上司が悪い →B
c)自分はもっとできるのに、こんなミスで評価されるなんて許せない →D
d)上司に嫌われたかも、どう取り戻そう →E - パートナーと喧嘩した後、あなたが取りやすい行動は?
a)話し合いが面倒だから、しばらく距離を置く →A
b)私がこんなに傷ついてるのに、相手は謝らない →B
c)相手が悪いのに、私が折れるなんてありえない →C
d)嫌われたら終わりだから、すぐに謝って仲直りしよう →E - 他人が成功しているのを見たときの内心に近いのは?
a)自分も挑戦したら失敗しそう、見ないようにしよう →A
b)あんな成功、私には不公平な壁があるからだ →B
c)あれくらいなら私にもできる、むしろもっと上を狙える →C
d)あの人の成功を褒めないと、嫌われるかも →E - 自分の短所を指摘されたときの反応に近いのは?
a)指摘される関係は避けたい →A
b)そんな言い方をする相手が悪い →B
c)自分は本当にダメな人間だ、もっと頑張らないと →D
d)嫌われたくないから、すぐに直そうとする →E - 努力しても結果が出なかったとき、心の中で思うことは?
a)もう挑戦するのはやめよう、傷つくだけ →A
b)努力を正当に評価してくれない環境が悪い →B
c)自分には才能がない、価値がない人間だ →D
d)周りに認めてもらえないと、努力した意味がない →E - 新しい人間関係を築くときに最も気になることは?
a)傷つく可能性があるから、深入りしない →A
b)また裏切られるかもしれない →B
c)相手が自分にとって価値があるかどうか →C
d)相手に好かれ続けるにはどうすればいいか →E - 自分の嫌いな部分を見つけたときの反応は?
a)そんな自分と向き合うのが怖いから、無視する →A
b)こんな部分があるのは過去の環境のせいだ →B
c)こんな自分は許せない、もっと完璧にならなきゃ →D
d)人に知られたら嫌われるから、隠そう →E - 誰かが自分を褒めてくれたとき、心の中で感じることは?
a)本当は褒められる価値がないから、居心地が悪い →D
b)もっと早く気づいて褒めてほしかった →B
c)当然だ、もっと褒められてもいい →C
d)この人に好かれ続けたいから、もっと頑張ろう →E - グループで意見が対立したときの立ち位置に近いのは?
a)揉めるのが嫌だから、黙って従う →A
b)多数派が私を無視するなんてひどい →B
c)正しいのは私だから、みんなを説得する →C
d)みんなと仲良くしたいから、多数派に合わせる →E - 過去の失敗を思い出したときの気持ちに近いのは?
a)また起きそうで怖いから、考えないようにする →A
b)あのとき周りが助けてくれていたら失敗しなかった →B
c)あの失敗で人からどう思われているか気になる →E
d)自分は本当にダメだった、取り返せない →D - 感情が強くなったとき、どう扱うことが多い?
a)関係が壊れるから、抑え込む →A
b)私の気持ちをわかってくれない周りが悪い →B
c)私の感情は正しいから、相手が変わるべき →C
d)感情を出すと嫌われるから、我慢する →E - 意見が通らなかった会議の後、どう過ごす?
a)もう会議に出たくない、疲れる →A
b)私の意見を聞いてくれない人たちが悪い →B
c)私の意見が一番正しかったのに →C
d)次はもっとみんなに受け入れられる意見を言おう →E
選んだ選択肢の右にある大文字の個数を数える(全15個):
A: 回避・逃走(14点)
B: 被害者・転嫁(15点)
C: 優越・支配(10点)
D: 自己破壊(6点)
E: 依存・承認欲求(15点)
エゴの5類型ごとに 100x(獲得点数)÷(満点) を計算すると、0〜100点で結果が出る。どの類型が優位だろうか?高得点だった類型が、自分の人生における課題として表れていると考えられる。
逆に、極端に点が低かった類型はあるだろうか?その類型を実行できなくするように幼いころに教えられたのだろうか?その類型を採用できないことで、他の類型で補償しているのだろうか?
また回答を選びにくかった質問はあっただろうか?その質問に含まれなかった選択肢の類型を選びたかったのだろうか?